マンションの相続税はいくら?新ルールを適用した計算方法と節税方法について解説
2024.12.02
マンションを相続予定なら、あらかじめ相続税をシミュレーションしておきましょう。国税庁は2024年1月1日以降に相続・贈与で取得した区分所有マンションについて、評価額の計算ルールを変更しました。そのため、相続税は新しいルールのもと計算する必要があります。
この記事では新しいルールを適用したマンションの相続税の計算方法や控除・特例について、さらに支払いが難しい場合の対処法について解説します。
目次
- 1 マンションの相続税の基本
- 2 マンションの相続税は相続税評価額が基準
- 3 相続税は遺産総額が基礎控除額を上回る場合に発生
- 4 マンションの相続税評価額の計算方法
- 5 土地部分の相続税評価額算定方法
- 6 建物部分の相続税評価額算定方法
- 7 相続税の計算方法
- 8 相続税の計算シミュレーション
- 9 マンションの相続税の控除や特例
- 10 配偶者控除
- 11 小規模宅地等の特例
- 12 おしどり贈与の特例
- 13 マンションを相続するときの流れ
- 14 ①遺言書の有無を確認する
- 15 ②相続人と被相続財産を確定する
- 16 ③遺産分割協議書を作成する
- 17 ④マンションの登記手続きを行う
- 18 ⑤相続税を申告・納付する
- 19 マンションを相続して相続税の支払いに困ったときの対処法
- 20 分割で延納する
- 21 相続したマンションを物納する
- 22 マンションを売却して現金化する
- 23 相続したマンションの活用方法は税金面を含めて判断を
- 24 マンションの相続税は全相続財産と相続税評価額から計算する
マンションの相続税の基本
親や兄弟、親族が亡くなってマンションを相続することになったら、相続税が発生します。まずは、相続税の基本について理解しておきましょう。
マンションの相続税は相続税評価額が基準
マンションの相続税の計算は、相続税評価額をもとに行います。相続税評価額とは、相続する財産の価値を、土地や建物、保険金、株式など種類ごとに国税庁が定めたルールで評価した金額のことです。
マンションの相続税評価額は、土地と建物とに分けて計算されます。
2024年1月に適用された相続税評価の新ルール
国税庁はマンションの相続税評価について新ルールを策定し、2024年1月から適用がスタートしました。
これまでの計算方法では、マンションの1室を保有している場合、多くの入居者が同一敷地内におり1室あたりの土地面積が極端に小さくなるため、戸建てに比べて評価額が低くなってしまいがちでした。
そのため、相続税評価額が市場価格と大幅に乖離する現象が起こっていました。
新ルールが定められた理由は、これを補正するためです。
新ルールでは、マンション1室の建物・敷地部分を従来通りに評価した額が時価の6割に満たない場合に、次のように補正を行います。
【(相続税評価額×マンション1室の評価乖離率)×評価水準0.6】
この補正によって、評価額は時価の6割程度まで引き上げられることになります。新ルールは、2024年1月以降に相続、遺贈または贈与で取得した分について適用されます。
相続税は遺産総額が基礎控除額を上回る場合に発生
ここで注意しておきたいのが、マンションの相続税は、その相続税評価額だけで決定するわけではない点です。実際にはマンションを含む遺産総額と基礎控除額をもとに計算されます。
遺産総額とはマンションだけでなく預貯金、株式、生命保険などプラスの財産をすべて合計し、負債額をマイナスしたものです。
基礎控除額は下記の計算式で導けます。
【3,000万円 +600万円 × 法定相続人の数】
遺産総額が基礎控除額を下回っていれば、相続税はかかりません。反対に、たとえマンションの評価額が基礎控除を下回っていても、その他の財産でプラスになっていれば相続税は発生します。
マンションの相続税評価額の計算方法
マンションの相続税の算定基準となる評価額は、土地と建物を分けて計算するのがルールです。ここからは、マンションの相続税評価額の計算方法を解説します。
なお、マンションが自身の住居用ではなく賃貸用のマンションであった場合は、相続税評価額の計算方法が複雑で異なることに注意が必要です。
土地部分の相続税評価額算定方法
土地部分の相続税評価額の算出方法には、「路線価方式」と「倍率方式」の2つがあります。
マンションが建っている土地に路線価が定められていれば「路線価方式」で算定、なければ「倍率方式」で算定します。2つの算定方法について詳しく見ていきましょう。
路線価方式
路線価とは、道路に設定された金額のことです。路線価は、国税庁のホームページの路線価図で確認できます。
路線価図には、その道路(路線)に接する宅地の1㎡あたりの価額が千円単位で表示されています。路線価方式での相続税評価額の計算式は以下の通りです。
【相続税評価額(土地)=土地面積(㎡)×路線価×持分割合】
マンションの場合の持分割合は、マンションの登記事項証明書で確認できます。
倍率方式
路線価の定めがない場合に使われるのが、倍率方式です。倍率方式では、相続した土地の基準年度の固定資産税評価額に評価倍率をかけて相続税評価額を計算します。評価倍率は毎年国税庁が公表していて、国税庁ホームページで見られます。
郊外の住宅地や農村地域などは、倍率方式で評価されることが多い傾向です。
【相続税評価額(土地)=固定資産税評価額×評価倍率×持分割合】
建物部分の相続税評価額算定方法
建物の評価額は居住に用いているのか、それとも賃貸物件としているのかによって変わります。
賃貸物件の場合は自身で居住に用いている場合より相続税評価額が低くなりますが、ここでは自身の居住用に用いている場合を想定します。
建物部分の相続税評価額は、固定資産税の評価額と同じです。固定資産税の評価額のおおよそ購入価格の7割程度と考えておくと良いでしょう。
【相続税評価額(建物)=固定資産税評価額×1.0】
固定資産税評価額は、毎年自治体から送られてくる固定資産税の課税明細書に記載されています。
相続税の計算方法
相続税を計算するには、まず遺産総額から基礎控除額を差し引きます。法定相続人が複数いる場合は、それぞれの法定相続分を算出します。例えば法定相続人が配偶者と子2人の場合は、配偶者が1/2、子が1/4ずつです。
続いて、相続税の速算表の法定相続分に対応する控除額と税率から実際の相続税を計算します。
◆相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の計算シミュレーション
相続する財産がマンションのみだった場合を想定して、シミュレーションを行います。
マンションの相続税評価額:1億円
相続人:配偶者と子2人
この場合の課税遺産総額は以下の通りです。
【1億-(3,000万+600万×3)=5,200万円】
課税遺産総額を法定相続分に応じて算出します。
配偶者:5,200万×1/2=2,600万
子:5,200万×1/4=1,300万
これらを相続税の速算表にあてはめて相続税を計算してみましょう。
配偶者:2,600万×15%-50万円=340万
子:1,300万×15%-50万円=145万
マンションの相続税の控除や特例
マンションの相続税をできるだけ抑えたいなら、節税につながる控除や特例の制度を活用しましょう。
控除や特例をうまく適用できれば、相続税を最大0円にできます。ただし、万が一相続税を0にできても相続税の申告は必要な点には注意が必要です。
配偶者控除
配偶者控除とは、被相続人の配偶者が相続した財産のうち1億6,000万円まで、または配偶者の法定相続分でどちらか大きい方の金額までは相続税が0円となる制度です。
配偶者控除を適用すると、ほとんどの場合で配偶者は相続税を支払う必要がなくなります。
配偶者控除の適用要件は、戸籍上の配偶者であること、遺産の隠蔽がないこと、遺産分割が確定していること、期限内に相続税申告をすることです。
ただし子どもがいる場合などは二次相続について考えておかないと、将来的に子どもが負担する相続税総額が大きくなってしまうかもしれません。
もともと被相続人の配偶者名義で所有している財産があれば、被相続人の財産が全額加算されることで1次相続より子どもの遺産総額が増えている可能性もあります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、空き家の増加防止の主旨で作られている制度です。被相続人が居住していた土地や事業を営んでいた土地、貸地について、一定の要件を満たした人が相続した場合に土地の一定の部分の評価額が80%または50%減額される特例です。
簡単にいうと、所有者が亡くなった後も相続人が住み続けるのであれば、マンションの相続税の負担を軽くするという仕組みです。
建物には使えない制度ですが、宅敷地の評価額を最大80%減額できる特例であるため、地価が高い場合には有効で大きな節税効果を発揮します。
ただし相続税の申告期限まで住み続けなければ特例は使えないため、相続直後の売却はできません。
居住用宅地の場合は330㎡までの面積に適用できるので、ほとんどの区分所有マンションが80%減額の対象です。
小規模宅地等の特例は、以下の条件を満たしている場合に適用できます。
・被相続人の配偶者が相続する
・被相続人と同居していた相続人が相続する
・被相続人に配偶者や同居人がいない場合、相続前の3年間借家住まいの相続人が相続する
おしどり贈与の特例
おしどり贈与特例は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で使える制度です。
自宅として使っている土地や建物、または自宅の購入資金を贈与した場合、基礎控除とは別に贈与額から2,000万円を控除できる仕組みです。年間110万円までの暦年贈与と併用できるので、最大2,110万円の非課税贈与が可能になります。
長く連れ添った夫婦には有利な制度であるものの、不動産取得税が発生して登録免許税の税率も相続時より高くなるのがデメリットです。さらに、おしどり贈与を使うと小規模宅地等の特例が利用できなくなります。
場合によっては配偶者控除の方が有利になる場合もあるため、専門家の意見を交えながら検討しましょう。
マンションを相続するときの流れ
マンションの所有者が亡くなったら、すみやかに相続の手続きを始めましょう。マンションを相続する流れは、5つのステップに分けられます。
①遺言書の有無を確認する
マンションの所有者が亡くなったら、まず遺言書があるかどうかを確認してください。被相続人が有効な遺言書を残している場合は、遺言書の内容に従って相続する人や遺産分割の割合が決まります。
遺言書にマンションを承継させる相続人を指定していれば、死亡と同時にその相続人がマンションの所有権を取得します。遺言書がない場合は、法定相続人へ相続されるルールです。
②相続人と被相続財産を確定する
相続の手続きは遺産総額が不明なままでは進められないため、相続人と被相続財産の確定を行います。
相続人を特定するために、まずは被相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せてください。次に、相続財産がどれだけあるかを調査します。
預貯金などの現金や不動産などのプラス財産のほか、借金などのマイナス財産も含めてすべての財産を正確に把握することが重要です。
相続財産は遺言書があってもすべてが記載されているとは限りません。預金通帳や金融機関からの通知、パソコンやスマホのメールなど、財産に関係ありそうなものはすべて調べる必要があるでしょう。
不動産は、固定資産納税通知書を参考に計算を行います。
2026年4月1日からは、法務局にて個人が所有する不動産をリストアップしてくれる制度がスタートする予定です。
③遺産分割協議書を作成する
相続人全員と連絡が取れて相続財産もすべて判明したら、誰がどの財産を相続するかを相続人全員で話し合います。これを遺産分割協議といい、協議の結果を書面で作成したものは遺産分割協議書と呼ばれます。遺産分割協議書は、相続登記の申請を含め各相続手続きの際に提出が必要です。
協議はスムーズに進むとは限らないので、なるべく早めに着手すると良いでしょう。
④マンションの登記手続きを行う
マンション相続後は、相続登記を行い所有者の名義変更を済ませます。相続登記は、2024年4月から義務化されました。本制度はさかのぼって適用されるため、これ以前に相続していたものでも相続登記が必要になります。手続きは、マンションの所在地を管轄する法務局で行います。
相続登記に必要な書類は以下の通りです。
・所有権移転登記申請書
・登記事項証明書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍、原戸籍、除籍
・被相続人の住民票の除票
・遺言書または遺産分割協議書
・相続人全員の戸籍および印鑑証明書(遺産分割協議を行った場合)
・相続人全員の住民票
・マンションの固定資産税評価額がわかる書類(固定資産評価証明書など)
登記申請書は法務局ホームページから、登記事項証明書は郵送扱いやインターネットからでも取得可能です。
⑤相続税を申告・納付する
相続する遺産額が基礎控除を超えている場合は、相続税の申告と納付が必要です。相続税の申告期限は「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内と定められています。
相続税申告書を作成し、被相続人の住所地を所轄する税務署へ提出しましょう。相続税の納付は所定の金融機関や税務署の窓口以外にも、額によってはクレジットカードやコンビニ支払いも利用可能です。
マンションを相続して相続税の支払いに困ったときの対処法
マンションを相続して配偶者控除や基礎控除を適用しても、相続税の支払い義務が発生する人もいます。支払いが必要な場合には、期限が定められている点に注意してください。
さらに、相続税は一括納付が基本です。ここでは、どうしても支払えない場合の対処法を解説します。
分割で延納する
延納は相続税を5~20年間の分割払いに変更する方法です。延納期間は相続財産における不動産の割合に応じて決まります。延納が認められるためには、下記の条件を満たす必要があります。
・相続税額が10万円より多いこと
・金銭での納付が困難な金額の範囲内であること
・申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
・延納税額に相当する担保を提出すること
担保となるのは以下のものです。ただし、延納税額が100万円以下で延納期間が3年以下であれば、担保は不要となります。
・国債もしくは地方債
・社債その他の有価証券
・土地
・建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの
・鉄道財団、工場財団など
・税務署長が確実と認める保証人の保証がある
・延納には利子がつく点に注意
相続したマンションを物納する
相続税を金銭で支払うのが難しい場合には、物納という方法があります。物納とは、相続した財産を相続税として納めることです。物納できる財産には優先順位があります。
不動産は第一順位に設定されているため、マンションを残して代わりに貴金属などの動産を納付するのは認められません。相続したマンションを物納する場合、時価よりも低い評価額がつく場合もあるため、専門家のアドバイスのもと慎重な判断をおすすめします。
マンションを売却して現金化する
相続したマンションを売却し現金化するのも、ひとつの方法です。ただしマンションを売却すると、譲渡所得税・住民税などの税金が発生します。売却額を決めるときは、これらの税金の支払いについても考えておく必要があるでしょう。
相続したマンションの活用方法は税金面を含めて判断を
マンションを相続したら、自分で住む、賃貸に出す、売却する方法があります。どの方法であっても、それぞれ税金の問題とは切り離せません。
自分で住むなら、固定資産税や都市計画税などがかかります。賃貸に出すと収入を得られる反面、収支計算や納税の義務も発生します。
そもそも相続税の納付が難しければ、売却も視野にいれる必要があるでしょう。売却して利益が出たら、譲渡所得税が発生します。
マンション相続後にどうすれば良いかは相続分野に詳しい弁護士・税理士・行政書士などと相談しながら考えることをおすすめします。
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マンションの相続税は全相続財産と相続税評価額から計算する
マンションの相続税は、被相続人の遺産総額をベースに相続税評価額をもとに計算されます。控除や特例を活用すれば、免税や減税になるかもしれません。
また、相続後の活用についても税金面を考慮して決める必要があります。正しく相続税と必要な税金を計算して、相続マンションを有効活用しましょう。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。