空き家を相続放棄しても管理義務が残る?免れる方法と注意点について解説
2024.12.15
空き家を相続放棄した場合でも、現に占有している場合は管理義務が残ります。空き家は相続放棄をしても管理せざるを得ないのが現状です。
管理義務があるのに管理を怠った場合、犯罪に巻き込まれたり、損害賠償請求されたりする可能性があります。
そこでこの記事では、空き家の管理義務についてや、管理・保存義務から免れる方法、相続放棄時の注意点などを紹介します。
目次
空き家を相続放棄しても管理義務が残る?
そもそも相続放棄とは、亡くなった人が残したプラス財産もマイナス財産も一切引き継がないことを意味します。
「遠方に住んでいて管理が難しい」「修繕や解体に費用がかかる」などが理由で、空き家の相続を放棄したいと考える人は少なくありません。
しかし、空き家を相続放棄しても管理義務は残る可能性があります。ここでは2023年4月に改正された管理義務について確認していきましょう。
2023年4月から管理義務は「現に占有している人」だけ
これまで、亡くなった人(被相続人)の「子、孫、兄弟、親」など相続権利のある人全員が相続放棄した場合、最後に相続放棄した人に管理義務が残っていました。
また、相続権利のある人が1人だけの場合にも、相続放棄後に空き家の管理をしなければなりませんでした。
空き家を放置すると老朽化した建物が倒壊し、近隣住民に被害を及ぼす恐れがあるからです。
そのため、相続放棄しても「相続財産管理人」を家庭裁判所で選任し、空き家を引き継ぐまでは管理する必要がありました。
しかし、2023年4月の民法改正により「現に占有している人」が管理するというルールになり、空き家を管理する人が明確になったのです。
例えば、相続財産である自宅に住んでいる場合は、管理や支配をしているとみなされ「現に占有している」ことになります。
反対に、遠方で実家の手入れなどに関わっていなければ、管理義務はありません。
管理義務から保存義務へ変更
これまで空き家を管理することを「管理義務」と表していましたが、法改正に伴い「管理義務」から「保存義務」へと呼称が変更されました。
最後に相続放棄した人が管理する義務がないことも、名称変更の理由にあります。とはいえ法律には「自己の財産と同じ様に注意を払い、その財産を保存する義務がある」といった内容が記されています。
名称は変更されたものの、実質的な義務には違いがないといえるでしょう。
相続放棄後に空き家を管理をしなかったらどうなる?
相続放棄しても現に占有している人にあたる場合は、空き家を管理しなければなりません。
相続放棄後、空き家の管理義務があるにもかかわらず管理をしなかった場合、以下のようなケースが起きると考えられます。
・犯罪に巻き込まれる
・損害賠償を請求される
それぞれの状況について詳しく解説します。
犯罪に巻き込まれる
空き家を管理せず放置していると、知らないうちに犯罪に巻き込まれる可能性があります。管理を怠ると放火をされたり、犯罪者の溜まり場になったりすることも考えられます。
犯罪の取引場所に利用されるケースも少なくありません。保存義務のある管理者が共犯を疑われる場合もあるので注意が必要です。
損害賠償請求をされる
しっかりと空き家を管理していなかった場合、損害賠償請求をされる可能性があります。
例えば、空き家の管理が不十分なことが原因で、債権者が債権回収できない、受遺者が遺産をもらえないなどに発展した場合は、保存義務のある相続放棄者が損害賠償責任を負わなければなりません。
さらに、建物の崩壊によって通行人に怪我をさせたり、放火によって近隣に被害を及ぼしたりした場合は、第三者に損害賠償請求されることがあります。
空き家を相続放棄したあとに保存義務から免れるには?
空き家を相続放棄したあとに保存義務から免れるには、以下の2つの方法があります。
・次順位の相続人に相続してもらう
・「相続財産清算人」を選任する
それぞれの方法について、詳しく解説します。
次順位の相続人に相続してもらう
「現に占有している人」が相続放棄をし、次の順位の人が相続した場合は、すべての遺産は次順位の相続人に引き継がれます。
それによって空き家の保存義務もなくなるため、管理をする必要がなくなります。
しかし、次の順位の人も相続放棄した場合は、占有している財産は残るため、空き家の保存義務は免れません。
「相続財産清算人」を選任する
全員が相続放棄した場合でも、保存義務を免れる方法があります。それは「相続財産清算人」を選任することです。
相続財産清算人は家庭裁判所で申し立てを行います。相続財産清算人とは何か、また選任するにあたって必要な書類や費用についてチェックしていきましょう。
相続財産清算人とは
相続財産清算人とは、被相続人(亡くなった人)の債務を整理し、財産が残った場合は国庫に帰属させる人のことです。
相続人が誰もいない場合や相続権利のある人全員が相続放棄した場合に、家庭裁判所にて相続財産清算人の選任が必要になります。
相続する人がいない遺産は、遺産を管理する相続財産清算人がいないと国庫に帰属させることができないのです。
相続放棄された空き家の場合、相続財産清算人が売却を検討し、難しい場合は土地を国庫に帰属させる手続きを進めます。
このように相続財産清算人に遺産を引き継ぐと、現に占有している人であっても、空き家の保存義務から免れます。
選任に必要なもの
相続財産清算人を選任する際に必要な書類や費用は以下の通りです。
【必要書類】
・申立書
・被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
・被相続人の両親の出生時から死亡時までの戸籍謄本
・被相続人の住民票除票または戸籍附票
・相続財産に関する資料(不動産登記簿謄本、預貯金通帳、残高証明など)
【費用】
・収入印紙:800円
・連絡用の郵便切手:数千円
・官報公告料:5057円
・予納金:20~100万円程度
被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に申し立てます。予納金は、相続財産清算人が遺産の清算に利用する費用や報酬に割り当てられるお金です。
空き家を相続放棄するときの注意点
空き家を相続放棄するときには、以下の点に注意する必要があります。
・空き家を処分すると相続放棄の効果がなくなる
・相続放棄する場合でも費用が発生する
具体的にどのような点に気をつければ良いのか確認していきましょう。
空き家を処分すると相続放棄の効果がなくなる
相続放棄しても保存義務が残るからといって、空き家を処分しないようにしましょう。
なぜなら空き家を処分すると、相続したものとみなされ相続放棄が無効になってしまうからです。
相続放棄が無効になった場合、借金などマイナスな遺産も相続することになり、不利益を被る恐れがあります。相続放棄したあとに空き家を処分しないよう十分注意しましょう。
相続放棄する場合でも費用が発生する
相続放棄する場合でも費用が発生するため注意が必要です。相続放棄した家の解体費用や固定資産税、修繕などの費用はかからずにすみます。
しかし、先述した通り相続財産清算人を選任するのに数十万〜数百万円かかる場合があります。相続放棄する場合でも費用が発生することを理解しておきましょう。
空き家の相続放棄は専門家に相談するのがおすすめ
空き家を相続放棄しても現に占有しているとみなされる場合は、保存義務が残ります。
保存義務があるのに空き家の管理をしないと、犯罪に巻き込まれたり損害賠償を請求されたりする可能性があるため注意しましょう。
保存義務から免れる方法は、次の順位の人に相続してもらうか、相続財産清算人を選任することです。ただし選任するには費用が発生します。
また、管理を免れようとして空き家を処分すると、相続放棄が無効になるため注意が必要です。
適切な判断をするためにも、空き家の相続放棄を検討している人は、ぜひ専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。