賃貸物件は相続できる|相続の流れ・注意点・税金について詳しく解説
2025.02.11

賃貸物件も居住用物件と同様に相続はできますが、手続きや注意点に違いがあります。そのため、相続の流れと注意点を事前に理解しておくことが大切です。
また、賃貸物件を相続する際の税金も計算式が変わるものがあります。専門家へ相談することも視野に入れつつ、確認していきましょう。
賃貸物件も相続できる

賃貸物件も、居住用物件と同様に相続できます。しかし、居住用物件の相続とは手続きが異なるため、その違いを確認しておくことが大切です。
自分が相続人になったときに慌てないためにも、相続の流れや注意点を把握しておきましょう。
賃貸物件の相続の流れ5ステップ

賃貸物件の相続の流れは以下のとおりです。
- 1. ローンや修繕などがないか確認する
- 2. 相続する人を決定する
- 3. 相続登記を行い名義変更をする
- 4. 管理会社・保険会社などの契約変更をする
- 5. 賃貸借契約の承継をする
それぞれやるべきことの詳細を解説していきます。
1. ローンや修繕などがないか確認する
亡くなった人が賃貸物件を持っていた場合には、まずその物件に債務(ローン)が残っていないかどうか確認しましょう。現金一括払いで賃貸物件を建てる人は稀で、多くの場合ローンが残っているためです。
相続人は原則としてこのローンを引き続き返済していかなければなりませんので、借入先の金融機関や毎月の支払額などをきちんと確認することから始めてください。なお、債務があまりにも多額であり、賃貸収入などを加味しても今後支払っていくことが難しい場合には、相続放棄を検討するのも一つです。
ただし、相続放棄をした場合は、借金のみならずプラスの財産も一切相続する権利がなくなります。相続放棄をする際は、この点をよく考えたうえで行うようにしましょう。
また、債務の確認と併せて、賃貸物件の管理状況や修繕の状況なども確認が必要です。例えば、管理会社への委託状況や修繕積立金の不足の有無、間近に控えている修繕があるかどうかなどを確認しておくとよいでしょう。
管理会社へ委託している場合は、管理会社へ相続した旨の連絡が必要となるほか、今後も発生する管理費を把握する必要があります。さらに、修繕を控えていれば大きな出費を伴う可能性もあるでしょう。
2. 相続する人を決定する
誰が相続するのかは、遺言書の有無で異なります。遺言書があればそれに従う必要がありますが、ない場合は遺産分割協議を行い、相続人を決定しましょう。
3. 相続登記を行い名義変更をする
相続登記は、法務局で行います。2024年4月1日より義務化されたため、必ず手続きしましょう。期限を過ぎると10万円以下の過料が課せられるため注意してください。
なお、相続登記の義務化についてや相続登記にかかる費用は、下記で詳しく解説しています。
4. 管理会社・保険会社などの契約変更をする
賃貸物件の相続では、相続手続きのほかに契約している会社との契約変更も必要です。具体的には、管理会社との契約変更や、賃貸物件にかけている火災保険・地震保険などの名義変更が挙げられます。
手続きを後回しにすると、必要なときに保険金を受け取れないなどのトラブルが発生するため、先に済ませておきましょう。
5. 賃貸借契約の承継をする
相続手続きが完了したら、入居者との賃貸借契約を引き継ぎます。賃貸借契約とは、賃貸物件を貸し借りする際に締結する契約書のこと。引き継ぐ際は、入居者に新しくオーナーが変わることも伝えると親切です。また、振込先が変わる場合も、このタイミングで知らせておくとよいでしょう。
賃貸物件を相続する際の注意点

賃貸物件を相続する際は、以下の点に注意しましょう。
- 1.共有名義は避け、単独相続する
- 2.修繕費・返還敷金を用意しておく
- 3.居住用と賃貸物件では評価額が異なる
- 4.ローンを支払う場合がある
- 5.賃料の扱いがタイミングによって変わる
それぞれの内容について解説していきます。
1. 共有名義は避け、単独相続する
賃貸物件を相続する際、共有名義はトラブルに発展する場合もあるため、なるべく単独で相続することをおすすめします。例えば、賃貸物件には賃料が発生するため、その分配でトラブルになることが考えられるでしょう。あるいは、管理の負担が一人に偏ることも。
そのほか、大規模修繕をしたり、売却をしたりする場合にも相続人全員で決める必要があるため、意見の不一致でなかなか進まないなど手続きに時間がかかってしまいます。
2. 修繕費・返還敷金を用意しておく
賃貸物件を相続した直後に修繕が発生する場合もあるため、対応できる資金が必要です。また、敷金を預かっているケースもあるため、入居者が退去する際に返還できるよう用意しておかなければなりません。
相続すると相続税の支払いもあるため、計画的に行わないと資金繰りで困ることになるでしょう。
3. 居住用と賃貸物件では評価額が異なる
相続税算出のための評価額の計算方法は、居住用物件と賃貸物件では異なります。具体的な計算式は以下のとおりです。
<居住用物件>
固定資産税評価額×1.0 |
<賃貸物件>
固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合) |
借家権割合は全国一律で30%です。また、居住用物件に比べ賃貸物件は持ち主の自由度が低いため、評価額が下げられています。
なお、計算が複雑で賃貸物件の相続が大変と感じた場合は、専門家に相談するのがおすすめです。相続についてお悩みの方は、ぜひ住栄都市サービスまでご相談ください。
4. ローンを支払う場合がある
賃貸物件のような収益性不動産の場合、ローンを残したまま被相続人が亡くなり、残りのローンを相続人が負担するケースがあります。団体信用生命保険のような、返済前に亡くなった場合に弁済する保険に加入していないと、そのリスクは避けられません。
また、被相続人に負債があり、相続人が複数人いる場合、相続放棄をしない限りで相続人全員に返済する義務が発生します。のちにトラブルへ発展する可能性もあるため、賃貸物件を相続する人とローンを返済する債務者が同一人物になるように手続きをしておきましょう。
5. 賃料の扱いがタイミングによって変わる
賃貸物件の賃料は、相続発生の前後で以下のように扱いが変わります。
被相続人の財産になる場合
- ・相続発生前に支払期日を迎えた賃料
- ・未収金であっても、被相続人の財産なので、相続発生前の賃料は遺産分割の対象となります。
相続人の収入になる場合
- ・相続手続きが完了後に発生する賃料
- ・遺言書がある場合、相続人として指定された人が相続することになった月に発生する賃料
相続人全員の共有財産となる場合
- ・相続発生後、遺産分割協議が終わるまでに発生した賃料
賃料がいつ発生したかによって、被相続人の財産になるのか、相続人の収入になるのか、相続人全員の共有財産になるのかが変わるため、注意が必要です。
賃貸物件の相続にかかる税金

賃貸物件の相続には、以下の税金が発生します。
- ・固定資産税
- ・都市計画税
- ・不動産所得税
- ・取得税
- ・住民税
それぞれの税金について詳しく解説します。
固定資産税
固定資産税は、賃貸物件を相続して所有を続ける場合に発生する税金です。以下の計算式によって算出します。
固定資産税=課税標準額×税率(標準税率1.4%) |
なお、同一人が所有するもので、課税標準額の合計が次に満たない場合は固定資産税の課税はされません。
- ・土地:30万円
- ・家屋:20万円
- ・償却資産:150万円
不動産取得税
不動産取得税は、相続に限らず不動産物件を取得した際に発生する税金です。以下の計算式によって算出します。
不動産取得税=建物もしくは土地の固定資産税評価額×税率4% |
税率は一律4%です。ただし、2024年3月31日までに取得した不動産は、軽減税率3%がかけられ、土地は評価額を2分の1に減額される措置もあります。
所得税・住民税
所得税・住民税は、賃料から必要経費を差し引いた不動産所得に対して発生する税金です。
賃貸物件を相続したら売却する手段もある

相続した賃貸物件を売却するか賃貸経営するかで迷った場合は、安定して収入を得られるかどうかで判断するとよいでしょう。
賃貸物件の立地がよく、空室になりにくい人気物件であれば、安定して収益を得られる可能性が高いです。しかし、築年数が古い・すでに空室が多い・ローンが残っているなどに該当する場合は、売却を視野に入れたほうがよいケースも。
いずれにしても一人で判断するのは難しいため、一度専門家に相談するのがおすすめです。賃貸物件の相続は、住栄都市サービスにお任せください。
賃貸物件の相続は慎重に行おう

賃貸物件は相続できますが、居住用物件と相続の流れや注意点が異なるため確認が必要です。また、相続にかかる税金も計算式が複雑なケースがあります。状況によっては、相続した物件を売却したほうがよい場合もありますが、判断に迷う場合は専門家に相談してみるとよいでしょう。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。
