相続する家がいらないときはどうする?3つの対処法と注意点を解説
2024.12.24
相続した家がいらない場合、何も手続きをせずそのままにしておくと固定資産税の支払いや適切な管理の義務が発生します。相続する家がいらない場合は、相続放棄、売却、贈与を検討しましょう。その他、自治体や国に寄付できることもあります。
この記事では、相続する家がいらない場合に取るべき対処法と注意点について解説します。
目次
相続する家いらないときどうしたらいい?
相続する家がいらないからといって、何の手続きもしないと解決になりません。相続する家がいらないときは、相続前の場合なら相続放棄、相続後の場合は売却、贈与、寄付ができます。
次の章からひとつずつ紹介します。
相続する家いらないときの対処法|1.相続放棄する
相続する家がいらないなら、相続を放棄する方法があります。いつまでに放棄の手続きが必要なのかや相続放棄をする際の注意点について解説します。
相続放棄の期限は3ヶ月まで
相続放棄の手続きは、相続開始から3ヶ月が期限です。相続が開始するのは、被相続人の死亡日です。相続開始から3ヶ月を過ぎると、放棄はできなくなります。
相続放棄の手続きは、亡くなった人の住民票の届がある地域の家庭裁判所に相続放棄を申し立てて行います。期間内に資産や負債をすべて洗い出し必要な書類を準備する必要があるため、手続きはかなり大変です。
個人でも相続放棄の手続きはできますが、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するのも有効な手段でしょう。
期間内に手続きができない場合は、相続の承認または放棄の期間の伸長を申し立てると期間を延長できます。ただし、延長の申し立ては相続人対象の全員が個々にする必要があります。
相続放棄で知っておきたいこと
相続放棄をするにあたり、遺産の一部のみを放棄はできない点や相続放棄をすると相続人が変わる点、相続放棄しても管理義務が残る点など知っておかなくてはならない注意点があります。
相続放棄について正しく理解して、手続きを進めましょう。
遺産の一部のみを放棄はできない
相続する遺産のうち、いらない家だけなど一部のみを相続放棄することはできません。不動産の他にも預貯金や資産価値のある貴金属などがある場合、相続放棄するとこれらのプラスの財産も手放すことになります。
また、万が一遺産の一部をすでに消費や処分している場合は、相続放棄できない点に注意が必要です。
例えば預貯金や不動産の名義変更、さらに公共料金を遺産の一部で支払う行為も単純承認したとみなされてしまいます。
単純承認とはプラスとマイナスの財産をすべて相続すること。単純承認とみなされると、相続放棄はできなくなります。
相続放棄すると相続人が変わる
相続放棄をすると、法定の相続順位に従い相続人が変わります。法定相続人は、原則、配偶者、子、親、兄弟姉妹まででが、例えば、妻と子が相続放棄したときには、親または兄弟姉妹が相続人となります。先順位の相続人が相続放棄したことにより相続人となった者は、相続放棄の手続きを行う必要が生じます。
相続放棄しても管理義務が残る
相続人が相続放棄をすれば相続財産の権利と義務は消滅しますが、その放棄によって相続人となった者が財産の管理をするまでは管理義務が継続します。(民法940条)
相続放棄すれば管理義務が無くなるわけではないことを覚えておきましょう。
相続する家いらないときの対処法|2.売却する
相続した家がいらない場合、相続放棄をする他に売却する方法もあります。
家の売却には、仲介と買取があります。ぞれぞれ詳しく見ていきましょう。
売却方法①仲介
仲介は、不動産会社に買主との間に立ってもらい不動産を売買する方法です。不動産会社は売主の依頼のもと、買主を探します。
建物の劣化が少ない場合や立地条件、周辺環境が優れている場合は、売却すると利益が出る場合があります。
売却方法②買取
買取とは、不動産に直接家を売却する方法です。仲介と比べて買取価格が下がるのが一般的ですが、早く売却したい人や相続した不動産と住まいが遠い場合におすすめの方法です。
相続する家いらないときの対処法|3.贈与する
相続する家がいらないときは、無償で誰かに贈与することも可能です。例えば、いらない家の近隣の人や法定相続人以外の親族などに贈与できます。
いらない家を贈与する場合に注意しておきたい贈与税について解説します。
贈与したときにかかる贈与税
不動産を贈与すると、贈与税がかかります。贈与税には基礎控除があり、年間110万円までであれば課税されないのがルールです。
家の評価額が110万円以下の場合は、贈与税はかからず、申告の義務もありません。
<贈与税の計算方法>
(家の評価額-110万円)×税率-控除額
<税率と控除額の一覧(一般贈与財産)>
家の評価額-110万円 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0万円 |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
ただしこの表は、兄弟間や夫婦間の贈与、親から未成年の子への贈与の場合に適用されます。
祖父から孫への贈与、父から子への贈与など特例贈与にあたる場合には、下記の一覧が適用されますので注意してください。
<税率と控除額の一覧(特例贈与財産)>
家の評価額-110万円 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0万円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
場合によっては寄付もできる
相続する家がいらない場合、自治体や国に寄付できることもあります。いらない家を寄付する方法や条件を押さえておきましょう。
自治体に寄付する
いらない家の寄付を受け入れてくれる相手を探すのは難しいですが、自治体であればその可能性は高まります。
受け入れてもらいやすい不動産は以下の通りです。
・公共の場として利用価値が高く見込める土地や建物
・再開発地域にあり有効活用できる土地や建物
・自治体が所有している土地に隣接している土地や建物
・資産価値が高い土地や建物
条件がいい不動産は売却した方が利益になる場合があるので、売却利益も考慮して寄付を検討しましょう。
土地のみなら国庫帰属する
建物がなく土地のみであれば、2023年4月に始まった「相続した土地の国庫帰属制度」を利用して、国庫に帰属できる可能性があります。ただし、国庫帰属できる土地には厳しい条件が定められています。
「相続した土地の国庫帰属制度」で申請できない土地は以下の通りです。
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・特定有害物質により土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地
また、申請費用と管理費を合わせると20万円以上の費用がかかる点にも注意が必要です。
相続した家いらない場合の注意点
相続期間が過ぎてからいらない家を相続した場合、不動産を放置しないように気を付けましょう。
空き家を放置すると、倒壊の危険や不審者や野生動物の出入りなどから隣人とのトラブルにつながりかねません。加えて相続した家が「管理不足空き家」や「特定空き家」に指定されると、固定資産税が6倍になるペナルティもあります。
空き家問題とリスクについてはこちらの記事が参考になります。
空き家問題の現状とは?放置のリスクと対策方法
【新改正】管理不全空き家はいつから固定資産税が6倍に?定義や回避方法を解説
相続する家いらない場合は適切に対応しよう
いらない家を相続しなければならない場合、相続放棄をするか、売却または贈与をするか、寄付をするかを検討しましょう。相続した家や土地には、固定資産税と管理義務が生じます。
相続した家や土地の近隣とトラブルにならないよう、できるだけ迅速に適切な対応を行うことが大切です。
監修
佐々木総合法律事務所/弁護士
佐々木 秀一
弁護士
1973年法政大学法学部法律学科卒業後、1977年に司法試験合格。1980年に最高裁判所司法研修所を終了後、弁護士登録をする。不動産取引法等の契約法や、交通事故等の損害賠償法を中心に活動。「契約書式実務全書」を始めとする、著書も多数出版。現在は「ステップ バイ ステップ」のポリシーのもと、依頼案件を誠実に対応し、依頼者の利益を守っている。